DVを視覚的に理解するツール『パワーとコントロールの車輪』

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「パワーとコントロールの車輪」(Power and Control Wheel)は、ドメスティックバイオレンス(DV)のダイナミクスを理解するための重要なツールです。このモデルは、1984年にアメリカのミネソタ州ダルース市のドゥルース虐待介入プロジェクト(DAIP)によって開発されました。パワーとコントロールの車輪は、DVの加害者がどのようにして権力を行使し、パートナーをコントロールするかを視覚的に示すもので、多くのDV支援プログラムで使用されています。

パワーとコントロールの車輪の構造

中心部:パワー(権力)とコントロール(支配)

車輪の中心には「権力と支配」という言葉が配置されています。これは、DV加害者の行動の核となる動機であり、彼らがパートナーを支配し、コントロールしようとする意図を示しています。この中心部分は、周囲に配置された具体的な虐待の戦術を統括するものです。

周囲のセクター

車輪の周囲には、DVの加害者が使用する8つの主要な戦術がセクターとして配置されています。それぞれのセクターは、異なる形態の心理的、感情的、経済的、性的な虐待を示しています。

8つの戦術

脅迫

脅迫は、加害者がパートナーを恐れさせ、自分の言いなりにさせるための戦術です。これには、物理的な暴力をほのめかす、物を壊す、自殺をほのめかす、子供を傷つけると脅すなどが含まれます。

経済的虐待

経済的虐待は、パートナーの経済的自立を奪う行為です。加害者は、パートナーの就労を妨げたり、収入を管理したり、経済的な資源を制限することでパートナーを経済的に依存させます。

感情的虐待

感情的虐待は、パートナーの自尊心を傷つけ精神的に追い詰める行為です。これには、侮辱、軽蔑、無視、嘲笑、過去の失敗を持ち出して責めるなどが含まれます。

隔離

隔離は、パートナーを外部の支援ネットワークから切り離す行為です。加害者は、友人や家族との接触を制限し、パートナーが孤立するように仕向けます。また、外出を制限したり、電話やインターネットの使用を監視することもあります。

子供を利用

子供を利用する戦術は、加害者が子供を使ってパートナーをコントロールし脅迫する行為です。これには、子供に対する脅迫、子供の親権を奪うと脅す、子供をスパイとして使うなどが含まれます。

性的虐待

性的虐待は、パートナーに対して望まない性的行為を強要する行為です。これには、強姦、性的な屈辱、性的な侮辱、避妊を拒否することなどが含まれます。

男らしさの特権

男らしさの特権は、性別に基づく優位性を主張し、家族内での決定権を一方的に握る行為です。加害者は伝統的な性別役割を利用して、パートナーに対する支配を正当化します。

責任転嫁と否定

責任転嫁と否定は、加害者が自身の暴力行為を否認し、正当化し、またはパートナーに責任を転嫁する行為です。これには暴力行為の存在を否定する、自分の行動をパートナーのせいにする、暴力の影響を軽視するなどが含まれます。



パワーとコントロールの車輪の活用

教育と啓発

パワーとコントロールの車輪は、DVの教育と啓発のための強力なツールです。DV支援団体、カウンセラー、教育者は、このモデルを使ってDVのダイナミクスを被害者や加害者、そして一般の人々に説明します。視覚的に理解しやすいため、DVの複雑な問題をわかりやすく伝えることができます。

カウンセリングと支援

カウンセラーや支援者は、パワーとコントロールの車輪を使って、被害者が経験している虐待の具体的な形態を明らかにする手助けをします。これにより被害者は自身の状況を正確に認識し、適切な支援を受けるための第一歩を踏み出すことができます。

加害者プログラム

DV加害者プログラムでも、パワーとコントロールの車輪は重要な役割を果たします。加害者に対して、自分の行動がどのようにパートナーをコントロールし傷つけているかを理解させるために使用されます。加害者が行動を変え、暴力をやめるための動機付けとなります。

パワーとコントロールの車輪の意義

包括的な理解

パワーとコントロールの車輪は、DVが単なる物理的な暴力にとどまらず、広範なコントロールと支配の戦術を含むことを明確に示しています。この包括的な理解は、DVの本質を深く理解し効果的な介入と支援を行うために不可欠です。

被害者のエンパワーメント

被害者が自分の経験を認識し、名前を付けることは、エンパワーメントの重要なステップです。パワーとコントロールの車輪を通じて、自分が受けている虐待の具体的な形態を認識することで、被害者は自分の状況に対する理解を深め適切な支援を求める力を得ます。

社会的な認識の向上

パワーとコントロールの車輪は、社会全体に対してDVのダイナミクスを説明するための教育ツールとしても役立ちます。一般の人々がDVの複雑な問題を理解し支援の必要性を認識することで、社会全体がDV根絶に向けて協力しやすくなります。

まとめ

パワーとコントロールの車輪は、DVを視覚的に示し理解しやすくするための強力なツールです。このモデルを通じてDVがどのようにして発生し、加害者がどのような戦術を用いるかを明確に理解することができます。教育、カウンセリング、加害者プログラムなど、多岐にわたる場面で活用されるこのツールは、DV被害者の支援と加害者の行動変容において重要な役割を果たしています。社会全体がDVの問題を理解し、協力して根絶に向けた努力を続けることが求められます。

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